会社からもらう役員報酬の全額について、休業補償を請求できるわけではありません。
会社役員の報酬には、利益配当部分(純粋な役員報酬)と、労務対価部分(会社の従業員として働いていることについての給与)の、2つの種類の報酬が含まれます。休業損害の対象となる基礎収入にあたるとされるのは、労務対価部分のみで、事業の規模や形態、役員の職務内容等を考慮して休業損害を請求できます。しかし、利益配当部分については原則除外されます。
交通事故で休業中に、利益配当部分にあたる役員報酬を貰っていたような場合は、休業損害の対象外となるだけでなく、将来の逸失利益を算定する際の基礎収入からも除外されるので注意が必要です。また、休業中に、会社が被害者である役員に対して、生活費名目などで事故前と同じ報酬を支払っていたような場合は、被害者の収入は事故の前後で減少していないので、会社役員本人は休業損害を請求することはできません。
なお、自賠責保険では通常、会社役員の休業損害について支払いはなく、任意保険会社も役員報酬を休業損害として認めない傾向にあります。
過去の裁判例で、会社役員の休業補償が認められたケースには以下のような例があります。
- 建物解体工事業を営む個人会社の役員(被害者)が、自身の職務内容も肉体労働が多い場合に、役員報酬全額が労務の対価として認められたケース(千葉地判平6.2.22)
- 名目的な取締役の被害者が、実際には従業員として働いている場合に、役員報酬を含む事故前年の年収全額が労務の対価として認められたケース(東京地判平11.6.24)
- 父親の経営する会社の監査役である被害者が、会社の中心的な働き手だった場合に、事故前年の年収全額が労務の対価として認められたケース(東京地判平13.2.16)