「素因減額」は、交通事故の被害者がこうむった損害が、被害者自身の身体的・精神的な事情によって、通常よりも拡大しているような場合に、損害賠償額から減額する制度のことです。交通事故によって基礎疾患の症状が出始めた場合や、交通事故の外傷を原因として生じない症状については、素因減額の対象として損害賠償額から減額されます。
ただし、椎間板ヘルニア、変形性頸椎や腰椎、後縦靱帯骨化、脊柱管狭窄や分離、胸郭出口症候群、腰椎すべりなどの一連の基礎疾患のうち、一般的に老化によってあらわれる症状は、それが年齢相応のものである限り、素因減額の対象とはならないとされています。具体的な症状としては、変形性頸椎や腰椎、頸腰椎椎間板へルニアなどが挙げられます。
多くの中高年の方々が、加齢・老化によって、頸椎の端の部分が変形したり、軟骨がすり減ったりしますが、実際に痛みを感じる人はさほど多くありません。ところが、交通事故をきっかけに症状が現れると、長期的な神経症状に悩まされる人は少なくないことから、これらの損害については、きちんと賠償の対象とする必要があります。ただし、素因減額の対象とならないのは、年齢相応の症状が原因と認められるものに限られます。退行変性と呼ばれる限度を超えて治療が長期化したり、症状が悪化した場合には10~20%程度の減額がされることもあります。